R2年度福祉保健局の決算に関して、自殺対策、児童虐待防止、ひとり親支援についての質疑を先週行いました。

自殺対策


令和2年の自殺者数は全国で21,081人となり、対前年比912人(約4.5%)増。男女別にみると、男性の自殺者数は、女性の約2.0倍という傾向は以前から変わっていないが、男性は11年連続の減少、女性は2年ぶりの増加となっている。東京都でも同様の傾向である。令和2年は元年と比較して、20歳代及び10歳代で大きく上昇となった点が特徴。

R2年の自殺者数を月ごとの推移を見ていくと、例年とは明らかに異なる傾向がある。6月までは減少し、7月以降に増加しており、特に女性全体と10代、20代の若者の増加が著しい。

都としては、コロナ対策の一環としても自殺対策を取り組んできたところである。そこで

Q1 令和2年度7月補正の自殺防止相談における支援体制の強化について、具体的な拡充内容と、令和2年度における相談実績について伺う。

A1(保健政策部長 答弁)
〇 新型コロナウイルス感染症の影響による自殺リスクの高まりが懸念されていたことから、都は令和2年7月に4千800万円の補正予算を計上し、東京都自殺相談ダイヤル及びSNS自殺相談の相談体制を拡充。
〇 具体的には、令和2年度における「東京都自殺相談ダイヤル」の相談時間帯は午後2時から翌6時までであり、このうち午後2時から午後6時及び翌3時から6時までの回線数を拡充し、全ての相談時間帯を2回線に。
また、SNS自殺相談は開始時間を2時間前倒しして、午後3時から開始するとともに、回線数を5回線から7回線に段階的に拡充。
〇 令和2年度における「自殺相談ダイヤル」の相談件数は  22,114件、令和元年度に比較して9.4%増、SNS自殺相談の相談件数は、11,209件、令和元年度に比較して46.9%増。

電話相談やSNS相談の体制を強化するなど、迅速に対策をとっていただいた点を評価。
特に若い世代が利用しやすいSNSでの自殺相談では前年比1.5倍の相談がきていることを考えても、大いに自殺防止につながったものと思われる。

過去の統計を見てみると、日本の自殺者数は、平成10年(1998年)に一挙に3万人を超え、以後高い数値が続いてきました。この急増の背景は「経済・生活問題」による中高年男性を中心としたものであり、バブル崩壊の影響が推測されています。

現在でも、コロナ後の「経済・生活問題」はこれから発生してくる課題であります。そこで

Q2 相談体制の充実をはじめ、自殺対策を強化していくべきと考えるが、今後都はどのように取り組んでいくのか伺う。

A2
(保健政策部長 答弁)
○ コロナ禍において女性や若年層の自殺者数の増加が課題となったことを踏まえ、都では対策の強化を推進。
〇 本年7月から、女性や若年者の相談ニーズに合わせ、東京都自殺相談ダイヤル及びSNS自殺相談の相談時間の延長等を実施。
○ また、これまで小学五年生、中学一年生、高校一年生に配布してきた、自殺予防に関するポケットメモを、本年度は、小学五年生から高校三年生までの全学年に拡大し、夏休み前に配布。
○ さらに、これまで9月と3月の自殺対策強化月間に実施していた、インターネットの検索連動広告を用いて、悩みを抱える方を相談窓口等の情報に誘導する取組を、本年8月から通年で実施。
〇 こうした取組により、引き続き、庁内各局、区市町村、関係団体と連携した自殺対策を推進。

女性や若者の自殺が急増していることを受けた対策を講じていただいていることがわかりました。女性は産後うつになりやすいので相談窓口のリーフレットを区市町村で母子向けに確実に配布するなどは良い取り組み。様々な方法で周知をしていただきたい。
また,わが会派の要望をうけ、SNSの相談時間を最もアクセスが多い夜間を延長して23時まで相談可能としていただいた点はありがたい。

R2年の前半に自殺者が減少していた背景には、緊急小口資金、住宅確保給付金、などの「経済・生活問題」を支える政策が自殺の増加を抑制している、という分析も出てきていますので、国への要望も含めて、総合的な自殺対策を引き続き取り組んでいただくことを要望し、次の質問へ。

R2決算特別委員会第二分科会福祉保健局質疑にて(都議会議員 茜ヶ久保嘉代子)

児童虐待防止


コロナ禍は、ステイホームが定着し、 自宅で家族と過ごす時間が増加した。警察庁によると、R2年の1年間で、虐待の疑いがあるとして全国の警察が児童相談所(児相)に通告した子どもは10万6991人に上った。前年と比べて8769人多く、統計を取り始めた2004年以降では過去最多だ。検挙されたケースも2133件と、同じく過去最多で、虐待の状況が深刻になっていることがうかがえる。
また家の外に出る機会が減ったことで、虐待が潜在化している可能性があります。しかし、子育てをする親を責めて断罪しているだけでは虐待は減らないので、妊娠期からの切れ目のない支援の充実こそ重要です。また児童の健やかな成長が育まれる環境である家庭を支える機能として、児童相談所が役割を担っていけるようになることが重要です。

R2年度はコロナ禍でありましたので、従来のように対面での相談、ご家庭に伺っての支援が難しかったと思います。そこで

Q3.昨年度、新型コロナウイルスの感染防止に配慮した相談支援体制の構築・強化を図ることを目的に、児童相談所においてテレビ電話を利用した相談支援を導入したとのことだが、その取組の状況について伺う。

A3.(子供・子育て施策推進担当部長答弁)
都は昨年度、コロナ禍における児童相談所の相談業務を補完するため、2か所の児童相談所でテレビ電話を利用した相談支援を試行し、その後年度内に10か所全てに導入している。 具体的な事例としては、児童福祉司等との関係性が構築できている家庭の保護者及び児童との面接や、一時保護中の児童と保護者間の面会などに活用しており、感染を懸念して家庭訪問を希望しない家庭や、外出が難しい保護者への相談対応に役立っている  また、医療機関や子供家庭支援センターなどの関係機関等との会議や打ち合わせ、自治体間の移管ケースの協議などにも利用しており、児童相談に係る情報を迅速に共有している。

コロナ禍においても児童相談所の役割を果たすために、テレビ電話が利用できるように対応していただいたことを評価。

児童相談所も業務多忙であり、保護者側も共働きでなかなか時間が作りにくいと考える。その点、リモートで相談支援を受けられるというのは有効であるため、今後、感染症終息後も、引き続き手段の一つとして残していってほしい。また、他の自治体からの移管、関係機関との情報連携を深める上でも、大変有効なので、より質の高い相談支援を続けるためのツールとして定着させてほしい。

次に、コロナ禍における相談内容の変化について伺う。

Q4.コロナ禍では、外出の自粛や保護者の在宅勤務の増加などにより、家族が家庭内で過ごす時間が長くなり、ストレスが増えたとも聞く。この間、児童相談所に寄せられる相談内容にも変化があったと思うが、具体的な内容等について伺う。

A4. 児童相談所では、児童虐待をはじめ、育児や子供の健康・障害など、子供と子育てに関する様々な相談を受け付けている。コロナ禍においては、外出自粛等によるストレスや、在宅勤務等で一緒に過ごす時間が増えたこと等の影響による相談も増加し
ている。 具体的には、「きょうだい喧嘩が多発している」、「ゲーム依存がひどくなった」、「つい、子供を怒鳴ってしまう」、「仕事や子育て、家事の役割分担について配偶者と揉めてしまい、子供の前で喧嘩になる」などの相談が寄せられている。

テレワークが普及し、良い点も多いが、仕事のイライラが家庭に持ち込まれてしまうのは子供にとってはマイナスである。またずっと家族が家にいることで家事負担の増加や仕事との両立のストレスが高まるなど、特に育児と家事を中心に担うことが多い母親の負担が高まり、逃げ場がない状態になりやすいと考える。
このような家庭内のストレスの高まりが、R2後半で女性が全世代で自殺者が増加してしまったことと無関係ではないと考える。

また、母親が精神的に追い詰められてしまっている状態では、子供のメンタルにも悪影響であることは間違いない。安心して、心身を休息できる安全ではない場であるはずの家庭が危険な場になってしまうリスクがある。

家庭内で相対的に弱いである子供に対して、そのストレスのはけ口になされてしまうことがある。R2年度においては都内公立小中学校の不登校児童、生徒数は過去最高となっており、全国の児童生徒の自殺者数が499人に上るなど、大変憂慮すべき事態となっている。

今後は子供の命を守る、子供の死亡を防ぐための取り組みであるCDR(チャイルドデスレビュー)の制度を東京都としても推進していくべきと考える。
CDR(チャイルド・デス・レビュー)とは他の道府県では取り組みが始まっており、子供の死亡を予防することに有効性が示されている制度。

一般的に子供を取り巻く環境は家庭か学校しかない。児童虐待が発生しない家庭環境を支援するため、あらゆる手段を講じて取り組んでいただきたい。

R2決算特別委員会第二分科会福祉保健局質疑にて(都議会議員 茜ヶ久保嘉代子)

ひとり親支援

コロナ禍で非正規雇用やパートアルバイトで仕事をされていた人が失職したり、減収となってしまっている実態がある。

特にシングルマザー家庭の中には以前から貧困から抜け出せない状態が続いていることが指摘されている。そのような中、多くの母子家庭が困っているのが養育費の未払い問題である。この課題については、我が会派でも明石市で既に実現していた養育費立替事業について研究していたが、都民提案事業として採択されたところである。

Q5都が昨年度開始した養育費確保支援事業について、昨年度の実績と今年度の取組を伺う。

A5(少子社会対策部長答弁)
都は、元配偶者からの養育費が不払いになった場合に備え、民間保証会社と連携し、養育費の立替保証等を行う区市町村を支援しており、昨年度は3区市が実施している。 今年度は、この事業を拡充し、養育費の取決めを行うに当たっての、公正証書の作成や、裁判によらない紛争解決手続きであるADRの利用等についても、支援の対象に追加している。

この制度を利用するための前提となる公正証書の作成なども支援対象としている点は評価。

一方、まだ始まったばかりの制度でもあるので、このような制度があることを知らない人が多い。離婚の前にしっかりと取り決めをしておくことが望ましいことから

Q6 ひとり親が養育費を確実に受け取れるようにするためには、養育費に関する都民への普及啓発や、自治体に対する事業実施の働きかけが必要と考えるが、都の取組を伺う。

A6(少子社会対策部長答弁)
都は、ひとり親家庭が養育費を継続的に受け取れるよう、ひとり親家庭支援センターにおいて、家事事件に精通した弁護士等による相談対応を行っている。また、離婚に際して必要な取決め等が行えるよう、離婚前から養育費の意義などについて学ぶ講習会も昨年度から実施している。昨年度に開設したひとり親家庭向けのポータルサイトにおいても、養育費の取決めの重要性や方法等について啓発している。 区市に対しては、ひとり親福祉施策の事業説明会や母子・父子自立支援員等を対象とする研修などの機会を通じて、事業の活用を働きかけている。

ひとり親家庭向けのポータルサイトの活用、また自治体と連携を通して、しっかりと活用を促していただきたい。

東京都は、ひとり親家庭支援センター「はあと」で、ひとり親家庭(母子家庭・父子家庭)、生活相談、養育費相談、離婚前後の法律相談、面会交流支援、就労支援などを行ってきている。

コロナ禍の影響で、シングルマザーを取り巻く就労環境は非常に厳しくなっていると考えます。雇用の受け皿が減っている中で、一層の支援が必要。

Q7 ひとり親の方は非正規雇用の割合が高いと聞いている。経済的自立が必要な方に対しては就業支援が重要であるが、ひとり親家庭支援センターでは、どのように取り組んでいるのか、実績もあわせて伺う。

Q7(少子社会対策部長答弁)
○ 都は、ひとり親家庭支援センターで、就業相談のほか、パソコン講習会、適職診断、小論文添削や面接対策などの就業支援を実施している。 また、各種資格取得の支援制度や産業労働局の職業訓練等の紹介など、家庭の状況に合わせ、きめ細かな支援を実施している。 昨年度からは、子供の進学など将来を見据え、必要となる収入の確保に向けた人生設計を学ぶセミナーの実施や、専門家によるマネープランの作成や資格取得の助言など、個々の状況に応じたキャリアアップ支援を開始している。昨年度のセミナー参加者は371名、個別支援の延べ件数は455件となっている。

R2年からは生活設計、キャリアアップ支援のセミナーを始めているとのことで自立に向けたプログラムを提供してきている点は評価。

しかし、セミナー受講や、支援を受けることはきっかけに過ぎないので、その後、確実に経済的に自立ができているのかまで徹底して支援を続けてほしい。

今までの行政の支援では母親は就労していたとしても、収入が低く、児童扶養手当に依存した生活になっていることが多い。当面は福祉の保護のもとで生活することは何ら問題ない。しかし、目先のことだけでなく、一生続くことを考えていかなければいけない。

子供が18歳となり、児童扶養手当を得られなくなってしまうと、母親が急に貧困に陥ってしまうケースが高齢女性の貧困問題につながっている。

女性は出産を機に退職した人が多いが、貧困にならないためには正規雇用での社会復帰が非常に重要。しかし高齢になればなるほど、正規雇用での就職はきわめて困難になる。なるべく30代のうちに復職してスキルを磨き、できるだけ正規雇用などで経済的に自立できるようすべきです。子供との生活を優先するあまり、社会復帰ができなくなる可能性、リスクが高いことを伝えていないことは支援として片手落ちであります。

R2決算特別委員会第二分科会福祉保健局質疑にて(都議会議員 茜ヶ久保嘉代子)

シングルマザーが自立できるよう伴奏型の支援を

今回の質疑に先立ち、ひとり親シングルマザーの経済的自立支援で、民間団体として確かな成果を出してきた一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表の江成さんに、お話を伺っておりました。

江成代表とのZoom会議

江成さんによると、一度退職した女性が再び正規雇用で社会復帰するには、社会から求められるスキルと経験、マインドセットに大きな差があるので、そこを埋めることが必要不可欠とのこと。

例えば、一般事務職を希望する女性は多いですが、ほとんど年収が200万円以下となり自立できません。一方で、敬遠されがちな営業職に挑戦したり、専門スキルを磨くよう支援したことで、およそ倍の年収である400万円近くとなる事例も日本シングルマザー支援協会の支援によって数多く出てきています。

シングルマザーとして、子供を養っていく責任のある世帯主であるが、主婦のままのマインドとなってしまっているので、その壁を超えないと貧困から抜け出せないのでスキルを取得すること、マインドを変えること含めて、ひとり親支援を行うことが必要です。

先行した事例として、神奈川、千葉、福岡では、従来の行政の発想を超えたひとり親支援を取り組んだ結果、児童扶養手当がなくても自立できる職を得られるシングルマザーが続出しているとのこと。

自治体のひとり親支援導入事例

シングルマザー自立体験談

東京都においても、単に就職していればよし、当面の生活費が確保されていればよし、とするのではなく子供が自立した後も貧困に陥ることがない、また子供世代へ貧困の連鎖をつなぐことがないような支援を実施していただけるよう働きかけてまいります。

ひとり親、特に一度仕事をやめてしまっているシングルマザーへの支援、いずれは手当に頼らなくても自立できるだけの経済力を得られるように、伴奏型の支援を充実していくことが長い目で見ると重要であると考えています。