慶應義塾大学大学院の看護学(健康マネジメント研究科 老年サポートシステム・制度論)にて講義をさせていただきました。
タイトルは
地域包括ケアシステムにおける行政の施策と地域の実態から看護職へ期待される役割
です。
私は、医療や介護の専門家ではありませんので、高齢者を取り巻く地域の課題と、それに対する行政の取組をご紹介し、受講生の皆様とディスカッションをさせていただく形式ですすめました。
=アジェンダ=
- 基礎自治体における地域包括ケアの実情
- 地域包括ケアシステム構築への都の取組(東京都高齢者保健福祉計画より)
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高齢者医療、介護の充実はいうまでもなく社会保障制度の上に成り立っています。土台がぐらついていることから目を背けて、綺麗事を語ることはできませんよね。各世代、現役世代、年金受給世代、それぞれの立場を超えてどうやって社会を支えていくのか真剣に考えて議論していくべきです。
自宅近くにあるケア24(杉並区における地域包括ケアシステムの拠点)へ、ヒアリングに行ってきました。
目次(クリックで各項目へジャンプします)
地域包括ケアシステムとは
高齢者の医療介護を支える仕組みとして、できるだけ自宅で過ごしながら、最期まで尊厳のある生活を送れるようにしていこうというのが地域包括ケアシステムの考えの根本にあります。
一昔前では、在宅で医療や介護を受ける仕組みは整っておらず、通院できない場合は病院に入院する、または特別養護老人ホームなどの高齢者施設に入所するしかありませんでした。
しかしながら、高齢になれば入院するほどの重症度ではなくても、生活支援が必要、定期的な医療サービスが必要になっていくものです。日本は長寿であることは世界に誇れることでありますが、いかに健康的に最期まで過ごすことができるか、という点は今後の課題です。
地域包括ケアシステムというのは、超高齢社会を行政と地域が協力しあって成り立つ仕組みです。
ケア24について(杉並区の地域包括ケア拠点)
杉並区では地域包括ケアセンターが中心となって高齢者を地域で支えるネットワークづくりを進めている。杉並区(人口57万人)の場合、20エリアに区分(1区分は3万世帯、うち高齢者1万人程度)
具体的には、町会、町会、民生委員、NPO法人、安心協力員(高齢者見守りボランティア)、商店街、事業者などで月1回会議を行い、年間イベントなども開催。高齢者だけでなく多世代コミュニティーづくりを目指す。
杉並の在宅看護、在宅介護の課題
現場の課題をいくつか紹介します。
高齢者を支えるのも高齢者になっている。介護職(ケアマネ、社会福祉士、保健士)全て不足。
ケアマネは資格はあっても報酬が低くケアマネ業務やりたがらない。ヘルパー自体が高齢化している80代とか。60代でも若手。なり手の不足。
賃貸住宅の方では、家賃負担のため引っ越したいと思っても高齢であることを理由に貸してもらえないことも多い。
居宅介護支援事業所が独立採算で成り立たない。人材確保難による閉鎖も続いている
長引く新型コロナウイルスの影響による利用控えによって介護事業所の事業収入が減少していること、さらに物価上昇によって備品や光熱費、燃料代といった費用が増加していることで経営状態がひっ迫している。
認知症高齢者の要介護度の判定が難しい。ADLなどの状態だけではなく、認知症による生活の支障を把握して判定すべき。(レスパイトケア:サポートする人の休息の必要性の観点も含めて)
訪問介護サービスについて、同居家族の負担を考えなければいけない。通所やショートステイなども組み合わせ、家族が職業生活や社会生活を過度に犠牲にすることなく、在宅での介護を継続できるようにすべき。
東京都の取り組み
社会福祉を維持するために
持続可能な福祉には社会保障費の増大をいかに押さえていくかを考えなければいけない。
- 2025年には、65歳以上の方ひとりを20歳から64歳の方1.8人が支えることになる。
これは非常に難しい、痛みを伴う改革が必要な内容。だからこそ、政治家は明言を避け、議論をはぐらかしたくなるテーマ。
公助でできることが限られていく中で、家族や地域コミュニティーの存在が重要なのだが、一方で
家族の機能、コミュニティー機能が低下している実態がある。(家庭は複合的課題をかかえている、地域コミュニティーの支え手が高齢化し、なり手が減っているなど)
それぞれが自分や家族のことだけで精一杯になりつつあるが、心の余裕を持って、自分とは属性の違う人の状況にも理解を示し、互いに尊重していくことが求められていると考えます。